小型中性子源の開発と応用
名古屋大学に小型中性子源を建設し、中性子イメージング、デバイス開発や物理実験を行っていきます
J-PARCなどの大型施設は、その高い中性子強度を活かした実験・測定を行うには適していますが、
大型施設であるがゆえに利用の申請などの時間が必要となり小回りの効く利用は出来ず、
トライアンドエラーが必要な初期段階の研究においては、効率的ではありません。
そのような場合には、より身近な手段として小型中性子源が適しています。
我々は工学部との名古屋大学理工連携放射線科学研究推進の一環として、名古屋大学東山キャンパス内に加速器中性子源NUANSを建設しています。
NUANSでは静電型の陽子加速器を用いて2.8MeVまで加速した陽子を、
ターゲットとなるベリリウムあるいはリチウムに衝突させ、核反応によって中性子を発生させます。
陽子ビームラインは途中で偏向電磁石によってその軌道を曲げることで、二通りの陽子ビームコースを作成しています。
一つ目のコースでは主にホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のための、リチウムターゲットなどのシステムを開発しています。
このコースは主に工学部瓜谷研究室が中心になって開発を進めています。
二つ目のコースでは主に私たちが開発を行っているもので、中性子イメージングや中性子検出器開発ができるような多目的汎用の中性子ビームラインになっています。
2018年7月には中性子の発生に成功しており、中性子現在計測を続けながら、ビーム強度増強のための調整を進めています。
中性子によるイメージングは、X線イメージングが原子番号が大きい原子に対して感度が高いのとは異なり、
特に水素に対して高い感度を持っています。また、水素の中性子入射の反応断面積は、中性子のエネルギーが低いほど大きくなるため、
減速された中性子を用いるとより感度が高くなります。
ベリリウムターゲットから発生した中性子は1MeV程度の高い運動エネルギーを持っているため、
ポリエチレンで作られた減速体に衝突させることで減速させます。
中性子はポリエチレン内の水素とピンボールの様に衝突して減速され、25meV程度の熱中性子にまでエネルギーを失います。
さらにこの減速体を炭素で出来た反射体で囲むことで、熱中性子を高い密度に保ちます。
私たちは、中性子イメージングに適した減速体や反射体、放射線を防ぐ遮蔽体の形状を設計し、この設計に基づいて製作しています。