複合核共鳴でのCP非対称度測定
宇宙観測の結果によると現在の宇宙における反物質の密度は物質の密度より小さいことが分かっている。
これは物質と反物質の間に性質の違いが存在するためだと考えられている。
この性質の違いは「CP対称性の破れ」によって生じており,その存在は素粒子実験によって確認されている。
しかし,宇宙観測による物質反物質密度の比は素粒子の標準理論から計算される値と大きく異なっており,
その原因は現代物理における未解決問題の一つとなっている,
我々は複合核共鳴吸収反応における時間反転対称性の破れを探索することにより,未知のCP対称性の破れに迫ろうとしている。
時間反転対称性は,「時間の向きを逆にしても物理法則が変わらない」という性質のことである。
この対称性は「CPT定理」を仮定するとCP対称性と同義であることが示されている。
そのため,時間反転対称性の破れの大きさを精密に測定することができればCP対称性の破れについて知ることができる。
原子核は低エネルギー中性子を吸収すると「複合核」と呼ばれる準安定状態を経由する原子核反応を起こす。
この反応の断面積は特定のエネルギーのときに大きくなり,複合核共鳴と呼ばれている。
複合核共鳴吸収反応においては,ある種の核種では空間反転対称性の破れが大きく増幅されることがわかっている。
また理論研究によると空間反転対称性の破れの増幅と同様のメカニズムによって時間反転対称性の破れが
増幅されることが示唆されており、その理論モデルでは時間反転非対称度の増幅度は偏極中性子ビームに対する
複合核反応の断面積と放出ガンマ線の角度分布を調べることで計算することができる。
我々はこれを利用した時間反転対称性の破れの探索を行おうとしている。
時間反転対称性の破れは偏極原子核標的と偏極中性子の複合核共鳴吸収反応における断面積の偏極方向による変化を見ることで測定することができる。
我々は現在,中性子が原子核に捕獲されるときに発生するガンマ線を測定することで空間反転対称性増幅機構の実験的
検証をするとともに様々な核種での時間反転対称性の破れ増幅度を測定している。
また,実験を精度良く効率的に行うために,中性子を偏極させるスピンフィルターや高計数率検出器の開発,核偏極標的など各種技術開発を行っている。