MuSEUM:ミュオニウム超微細構造精密測定実験
MuSEUM(Muonium Spectroscopy Experiment Using Microwave)グループは、
ミュオニウム基底状態の超微細構造(MuHFS)の精密測定を目指しています。
水素原子の分光は,Bohrの量子仮説,Dirac方程式,Lamb shiftなど量子物理学の重要な発見に本質的な寄与をしてきました。
ミュオニウムは正ミュオンと電子のレプトンからなる水素様原子であり、またミュオンは寿命が2.2μ秒と長く、ミュオンが崩壊して生成される陽電子の運動量はミュオンスピンと相関を持つため、ミュオニウムの超微細構造の精密分光が可能となります。
MuHFSは量子電磁気学の理論計算で高精度に決定されます。
そのためMuHFSを精密にマイクロ波分光した結果と理論値を比較することで、束縛系量子電磁力学の最高精度の検証が可能となります。
MuHFSの測定はJ-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex) MLF(Materials and Life Science Experimental Facility)のミュオンビームを用いて行っています。
J-PARCにおける大強度パルスミュオンビームをクリプトンガスに入射することで、
電子を束縛させて大量のミュオニウムを生成します。
ミュオニウムにマイクロ波を照射し、ミュオンのスピン状態を操作することでエネルギー状態の分光を行います。
MuHFSの測定方法として、外場ゼロでの測定と強い外場を印加した測定があります。
現在MuSEUMグループでは外場ゼロでのMuHFS測定でΔνを測っていますが、
次のステップとして建設中の大強度ミュオンビームラインであるHラインで1.7T磁場中での(強い外場を印加した)測定を目指しています。
強い外場を印加した測定においては、ゼーマン分裂した準位間のエネルギー差に相当する2つ共鳴周波数ν
12、ν
34(それぞれおよそ1.9 GHz, 2.6 GHz)をマイクロ波キャビティを用いて測定し、図中における関係からMuHFSと同時にミュオン-陽子磁気モーメント比とミュオン-電子質量比が導出されます。
特にミュオン-陽子磁気モーメント比に関しては、現在理論値と測定値が3.7σ乖離しているミュオン異常磁気能率の測定値を決定するために必要な外部パラメータであるため、精密測定が重要となります。
Φ研では、高磁場下での測定に向けた準備の一環として、統計量の増加とビーム強度の変動による系統誤差の削減を狙いチャンバー前方に配置する検出器を設計や、高磁場中での時間微分法という新しい解析手法の開発を進めています。
MuHFSの先行研究での主な不確かさは統計量の不足であり、ラビ振動を直接フィッティングすることで共鳴周波数を求める時間微分法では、ゼロ磁場において従来と比較して3.2倍統計精度が改善できることがわかってきました。