Laboratory for Particle Properties (Phi-lab)
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cry-EDM測定:結晶内電場を利用したEDM測定


中性子のような基本粒子が電気双極子モーメント(以下、EDM:electric dipole moment)を持つと、時間を巻き戻した時にスピンの向きは反転するが、EDMの向きは反転せず、巻き戻す前と異なる状況が出来上がる。このような状況を時間反転対称性(以下、T対称性)が破れているという。相対論からの要請であるCPT定理(CPT=1)から、T対称性の破れはCP対称性の破れを示すこととなる。



 現在、実験から中性子EDMの上限値は、3.0×10^(-26)[e・cm](+eと-eの電荷が3.0×10^(-26)[cm]離れたところにあるということ)と与えられている。この距離は中性子を地球に例えると、ミドリムシほど(3μm程度)の大きさである。一方、超対称理論(SUSY)などの標準模型を超える理論には、中性子EDMの値を10^(-27) 〜10^(-28)[e・cm]と予想するものがある。そこで私たちは、さらに2桁ほど感度を上げることによって、新しい物理への道を探ろうとしている。



 中性子EDMが存在すると、電場をかけた時に中性子のスピンが歳差回転を行う。そこで中性子EDMを測定するにはこのスピン歳差回転を測定する。よって中性子EDMの測定感度は中性子にかける電場の大きさに依存する。中性子EDMの測定方法は、超冷中性子(以下、UCN:ultra cold nutron)蓄積法と結晶回折法の2つに大きく分けられ、私たちはこのうちの結晶回折法に取り組んでいる。中性子EDMの測定には、偏極した中性子と強い電場が必要となる。UCN蓄積法では、UCNを容器内に閉じ込め、そこに強い電場をかける。一方、結晶回折法では、ある種の結晶内にあるとされる人工の電場に比べ非常に大きな電場を利用する。私たちは現在、この結晶内電場の測定実験を行っており、今後、中性子EDMの測定へとつなげていく予定である。